旅館の採用はなぜ難しいのか|観光業の人手不足を立て直す打ち手
「繁忙期のたびに、今いる人員でなんとか回している」「求人は出し続けているのに、応募の連絡が来ない」——旅館やホテルの経営者・女将さんとお話ししていると、この状況に行き着くことが本当に多いです。観光のお客様は戻ってきたのに、働き手が戻らない。予約を制限して部屋を空けたまま回している宿も珍しくありません。
観光業の人手不足は、たしかに業界全体の構造的な問題です。ただ、「観光業だから採れない」で止めてしまうと、自社で動かせる部分まで手つかずのまま残ります。同じ温泉地・同じ職種でも、応募の集まり方には差が出ます。その差がどこから生まれるのかを、順に見ていきます。
この記事でわかること
- 旅館・ホテルの採用がどこまで構造の問題で、どこからが自社の問題なのか
- 仲居・フロントの求人に応募が来ない3つの原因
- 住み込み・繁忙期・中抜けシフトの「正直な見せ方」
- 母集団形成から定着まで、旅館が先に手をつけるべき打ち手
旅館・ホテルの採用が難しい構造|観光業の人手不足の現状
先に結論を言うと、旅館の採用難は「需要の回復と働き手の減少が同時に起きている」ことに加えて、「働き方のイメージ」と「立地」の壁が重なった三重の構造です。担当者の頑張り不足ではありません。
宿泊業は、以前から求人を出しても人が集まりにくい業種の代表格でした。そこにコロナ禍での休業・雇用調整が重なり、一度離れた人材が他業種へ移ったまま戻らない。一方でお客様の側は国内旅行もインバウンド(訪日客)も回復し、需要だけが先に膨らんでいるのが現状です。
2026年5月時点で、接客・給仕職業従事者の有効求人倍率は2.28倍、飲食物調理従事者は2.15倍。全職業平均が0.99倍ですから、いずれも2倍以上の水準です(※1)。
<small>※1 参考:厚生労働省「一般職業紹介状況(令和8年5月分)」参考統計表7-1「職業別 一般職業紹介状況[実数](常用(パートタイムを含む))」(2026年6月30日公表)。同表の職業計(全職業平均)の有効求人倍率は0.99倍。 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_74004.html </small>
企業側の調査でも同じ傾向が出ています。帝国データバンクの調査(2026年4月)では、旅館・ホテルで非正社員の人手不足を感じている企業は38.5%。コロナ後のピーク時からは改善したものの、非正社員の全業種平均(28.3%)を上回る水準が続いています(※2)。<small>※2 引用:株式会社帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2026年4月)」(全国2万3,083社を対象、有効回答1万538社。2026年5月公表)。 https://www.tdb.co.jp/report/economic/20260519-laborshortage202604/ </small>
さらに旅館は、温泉地や山間・海沿いなど、そもそも通える人が少ない立地にあることが多い業種です。地方は車通勤が前提で、求職者が現実的に通えるのはおおむね片道1時間/25〜30km圏内まで。その薄い商圏の中で、近隣の宿や他業種と同じ働き手を取り合う構造になっています。
旅館の求人に応募が来ない3つの原因
構造の話を踏まえたうえで、同じ条件でも差がつく「自社で動かせる部分」は、おおむね次の3つに集約されます。
原因1|働き方のイメージが実態より悪く見られている
旅館の仕事には、「仲居さんはきつい」「中抜けシフトで拘束が長い」「土日祝は休めない」というイメージが先に立ちます。実際にそういう面はあるにせよ、宿によって働き方の設計は大きく違うのに、求人票がそこを語らないままだと、求職者は最悪のイメージのほうで判断します。
中抜けを廃止した、連休を取れる交代制にした、清掃や配膳を分業化した——そうした改善をしている宿ほど、実は求人票に書いていないことが多いんですよね。伝えていない改善は、求職者にとって存在しないのと同じです。
原因2|住み込み・寮の見せ方が古い
旅館採用の強みになり得るのが住み込み(寮)です。家賃負担を抑えて働き始められる条件は、県外からの転職者や、環境を変えたい若手にとって魅力になります。ところが「寮あり・住み込み可」の一行だけでは、古い相部屋の生活を想像されて、かえって敬遠されがちです。
個室かどうか、風呂・トイレ・Wi-Fiの環境、食事の扱い、寮費。ここまで書いて、できれば写真を載せる。住み込みは「条件の一行」ではなく「暮らしごと提案する採用手法」として見せると、商圏の外からの母集団形成に働き始めます。
原因3|条件の羅列で、観光業で働く価値が言語化されていない
給与相場で大手ホテルや他業種と比較されると、地方の旅館は数字だけでは分が悪い場面があります。それなのに求人票が給与・勤務時間・休日の羅列だけだと、比較負けして終わります。
お客様の記憶に残る仕事であること、外国語や接客の力が磨かれること、インバウンドのお客様と日常的に接する環境であること。未経験・若手が「接客が好き」「暮らしを変えたい」という動機で入れる入口を言葉にできているか。条件で勝てないなら、総合点で勝負するしかない、というのが実際のところです。
3つの原因に共通するのは「中の当たり前」が外から見えないこと
3つの原因を並べると、共通する構造が見えてきます。宿の中で当たり前になっていることほど、求人票に書かれない、ということです。中抜けを減らした工夫も、寮の実際の暮らしも、接客で身につく力も、中の人にとっては「わざわざ書くほどのことではない」情報です。ところが求職者は、書かれていない部分を良いほうに想像してはくれません。空欄は不安で埋まります。
だから弊社が旅館の求人を見るときは、条件の良し悪しより先に「求職者が最悪を想像しそうな項目が、実態で上書きされているか」を確認します。シフトの組み方、繁忙期の休みの取り方、寮の部屋と設備、車がない場合の通勤手段。ここが書かれていれば不安は減り、書かれていなければ業界のイメージだけで判断されます。応募が来ない原因の見立ては、中から見るのと外から見るのとでズレやすいものです。宿の事情を知らない人に一度求人票を読んでもらうだけでも、抜けている情報は見つかると考えています。
観光業の人手不足を立て直す採用の打ち手
打ち手の順番は、露出(母集団形成)→見せ方→受け皿、です。いきなり新しい採用手法を増やすより、この3つを整えるほうが先だと思います。
まず露出を増やす(母集団形成)
応募が来ない宿の多くは、条件が悪い以前に、そもそも求職者の目に触れていません。応募の母数を増やす母集団形成が採用の土台です。求人を出せる場所は有料広告だけでなく、無料で掲載できる媒体も思っているより多くあります。加えて旅館の場合、リゾート勤務や移住に関心のある層へ届く媒体という選択肢もあり、商圏の薄さを県外からの応募で補える余地があります。
そもそも応募が来ない原因は露出以外にも段階があります。どこで詰まっているかの切り分けは、こちらが役に立ちます。
繁忙期・中抜けは正直に書く
応募を増やしたい気持ちが先に立つと、きつい部分を伏せたくなります。ただ、繁忙期の忙しさや中抜けの有無を伏せて採用すると、入社後の「聞いていた話と違う」につながり、定着率を下げるだけです。分かったうえで応募してきた人は、その条件を織り込み済みです。正直に書くことは応募を減らす行為ではなく、辞めない人を選ぶ行為だと考えたほうがいいと思います。
受け皿となる採用サイトを整える
求人媒体で宿の名前を知った求職者は、次に宿名で検索します。出てくるのが宿泊予約ページだけでは、「働く場所」としての情報がゼロのまま判断されてしまいます。仲居・フロント・調理それぞれの1日の流れ、寮の部屋、若手スタッフの入社理由。露出と受け皿は両輪です。
ただ、これらを女将業務や現場と兼務しながら回すのは簡単ではありません。採用に最低限必要な作業を洗い出すと必須作業だけでも40以上あり、旅館では採用担当が経営者・女将の兼務であるケースがほとんどです。手が回らないから改善が進まず、改善が進まないから人が採れない。この循環をどこかで断つ必要があります。
旅館の採用についてよくある質問
Q1. 住み込みの求人は、今でも応募が集まりますか?
集まり得ます。ただし「寮あり」の一行では効きません。個室・設備・寮費・食事まで具体的に書き、写真を載せることが前提です。環境を変えたい県外の若手や移住希望層にとって、住まいごと用意されている求人は選択肢になります。
Q2. 繁忙期だけ人を増やすことはできますか?
短期・スポットの働き手で波を吸収するやり方はあります。ただ、それは正社員採用の代わりにはなりません。短期で来た人に宿の働き方を見てもらい、合う人に長期・正社員の道を示す「入口」として位置づけると、繁忙期対応と採用が別々の話ではなくなります。
Q3. インバウンド対応で外国人材の採用も考えるべきですか?
選択肢にはなりますが、在留資格ごとに任せられる業務や受け入れ要件が異なるため、制度の確認が前提になります。その検討と並行して、まずは今の求人の見せ方と露出を整えるほうが、着手も早く費用もかかりません。
「観光業だから」で採用をあきらめないために
旅館・ホテルの人手不足は構造として実在します。需要は戻り、働き手は減り、立地の制約は変えられません。それでも、働き方の改善を求人票に書き、寮を暮らしとして見せ、出せる媒体に出し切る——ここまでやってから「構造の問題」と言うのが順番だと思います。
とはいえ、これを現場と兼務で続けるのは大変です。弊社自身、岐阜という地方に拠点を置きながら、採用広告を使わずに年間1,152名のエントリーを自社で獲得してきました。「だから御社も同じ数が採れます」という話ではなく、露出の設計を自分たちの採用で実証してきた立場から、宿ごとの見せ方をご一緒できる、ということです。
全部をお任せいただく必要はありません。求人原稿の作成と媒体運用だけを外に出し、面接と合否判断は宿に残す。そうした線引きもできます。まずは御社が今どこに求人を出していて、何が伝わっていないのかをうかがうところから始めます。
この記事を書いた人

たまちゃん
マーケティングデザイン部 マネージャー/Webマーケター 大学在学中に、複数Webメディアを立ち上げ、アフィリエイターとして法人化。設立から2年後、社会貢献などの「働きがい」を求め、リーピーにジョイン。 現在は、現場で培ったWebサイトの運用経験を元に、お客様サイトの運用代行や自社コーポレートサイトの運用など、幅広いマーケティング領域を担当。