【中小企業向け】採用戦略の立て方|計画の前に決める5つの論点と始め方
「採用を強化したいけれど、何から始めればいいのか分からない」——採用の相談で、いちばん最初に出てくる言葉です。名前をよく聞く求人媒体に出稿してはみたものの、応募が来ない。かといって他に何をすればいいのかも分からない。そんな行き止まりで足踏みしている会社は多いです。
この状態で「採用計画を立てましょう」と言われても、手は動きません。何人採るか、いつまでに採るか、いくらかけるか。枠は分かっても、その数字を決める根拠が自分のなかにないからです。計画の手前に、戦い方を決める工程がある。それが採用戦略です。
採用戦略とは|計画の手前で決める、戦い方
採用戦略とは、自社が採用市場のどこで戦い、誰に、何を武器にして選ばれるのかを決めることです。人数や予算といった数字ではなく、その数字の根拠になる考え方のほうを指します。ここが決まっていないと、媒体選びも求人票の書き方も、その場の思いつきで決まってしまう。採用がうまくいかない会社の多くは、施策の巧拙より、この土台が空白のまま走り出しています。
戦略と計画の違い|考え方を決めるか、手順に落とすか
この2つは混同されやすいので、先に線を引いておきます。
- 採用戦略=戦い方を決めること。誰を採るのか、なぜ自社が選ばれるのか、どこに力を配分するのか
- 採用計画=戦い方を実行に移すこと。採用人数、時期、選考フロー、予算、KPIといった具体の設計
順番としては、戦略が先で計画が後です。戦略のない計画は、数字だけが並んだ表になります。「今期は3名採用、予算は◯◯万円」と決めても、なぜその3名なのか、なぜその予算配分なのかを説明できなければ、うまくいかなかったときに何を直せばいいのかが分かりません。
逆に、戦略だけあって計画がないと、いつまでも動き出せません。戦略は方向を示すだけで、期日も担当も持たないからです。この記事で戦い方の輪郭を掴んだら、KPI・予算・要件を6手順で決めるへ進んで、手順に落としてください。2本セットで一つの流れになります。
戦略を飛ばした会社は、たいてい同じところで詰まる
戦略を決めずに動き出した会社は、だいたい同じ壁にぶつかります。
求人を出しても応募が来ない。原因が分からないので、媒体を変えてみる。それでも来ないので、掲載プランを上げる。費用は増えるのに手応えはない——この繰り返しです。原因が分からないまま打ち手だけを変えているので、当たるかどうかが運任せになってしまう。
「正直、原因がどこにあるのか分かっていないんです」という声を、弊社もよく聞きます。そして実は、その原因の見えなさ自体が、採用に戦略が要る証拠なんですよね。何を狙って何をやっているかが決まっていれば、外れたときに「どの前提が違ったか」を特定できます。戦略とは、当てるためのものというより、外れたときに学べる状態をつくるためのものだと考えてください。
採用戦略の立て方|中小企業が決める5つの論点
採用戦略を立てるといっても、フレームワークを埋める作業ではありません。中小企業の場合、決めるべきことは次の5つに絞れます。事業からの逆算、ターゲットの置き方、戦う土俵の把握、選ばれる理由の設定、費用のかけ方。この順番で決めていくと、後から計画に落とすときに矛盾が出にくくなります。
01. 論点1|採用の目的を、事業から逆算する
始め方としてまず置くのが、なぜ採るのかです。
「人が足りないから」で止めないでください。足りない状態にも種類があります。受注が伸びて手が回らないのか、退職の穴が埋まっていないのか、数年後の技術継承に備えたいのか。どれなのかで、採るべき人も、かけるべき時間も変わります。
3年後に会社をどうしたいかから逆算すると、輪郭がはっきりします。技術継承が目的なら、いま活躍している職人の隣に立てる若手が要る。受注増への対応なら、短期で戦力になる人が要る。目的が言葉になっていれば、選考の途中で判断に迷ったとき、立ち返る場所ができます。
02. 論点2|ターゲットを「即戦力」から動かす
次に、誰を採るのかです。ここが、中小企業の採用戦略でいちばん効く分岐点になります。
多くの会社は、求人要件に即戦力の条件を盛り込みます。業界経験3年以上、有資格者、同業からの転職者。自社に合わない応募を減らしたいという気持ちから来るのですが、地方ではこれが逆に効きます。
通勤可能な範囲のなかに、その条件を満たしていて、いま転職活動をしている人が何人いるか。試しに数えてみると、想像よりずっと少ないはずです。たとえば岐阜県でフロントエンドエンジニアの経験3年以上、かつ転職活動中という条件で絞ると、該当するのは6人程度です。その6人を、同じ商圏の各社で奪い合うことになる。現実的な勝負ではありません。
ここで発想を変えます。スキルや経験より、考え方が自社と噛み合うかを軸にする。経験が豊富でスキルが高くても、考え方が後ろ向きな人が入ると、組織全体の生産性はむしろ下がります。逆に経験ゼロでも、教える体制さえ整っていれば伸びる。要件を「教育前提」に組み替えると、母数がまるで変わります。
実際、ある岐阜の製造業(正社員6名規模)では、社長が採用を兼務しながらスキル要件を高く設定した結果、1年間まったく応募が来ない状態が続いていました。要件を見直し、受け皿となる採用サイトを整えたところで、ようやく応募が動き始めています。要件は絞るほど質が上がるものではない、というわけです。
03. 論点3|戦う土俵を把握する|通勤圏と、同商圏の競合
3つ目は、どこで戦っているのかを知ることです。
地方の採用には、都市部にない物理的な制約があります。電車網が弱く車通勤が前提になるため、求職者が現実的に通えるのは片道1時間/25〜30km圏内まで。この限られた圏内が、自社の採用市場のすべてです。
そして、その圏内には同業他社が集まりがちです。求職者から見ると、条件も仕事内容も似た会社が横並びで見えている状態になる。ここで自社だけが競合の求人条件を知らないまま募集を出すと、比較の土俵に上がった瞬間に外されます。
戦略づくりの実務としては、まず圏内の同業がどんな給与、休日、勤務時間で募集しているかを一覧にしてください。地道な作業ですが、これをやらずに条件を決めるのは、相手の手札を見ないでカードを切るようなものです。地方特有の構造をもう少し広く押さえたい方は、中小企業が人を採れない理由と、明日から動ける打ち手が参考になります。
04. 論点4|何で選ばれるかを決める
土俵が見えたら、そのなかで何を武器にするかを決めます。
いまの採用は、企業が選ぶのではなく、求職者に選んでもらう取り合い合戦です。求職者は複数の求人を並べ、社名で検索し、口コミやホームページまで確認したうえで応募先を決めている。つまり勝負は条件の一点ではなく、条件・仕事内容・会社の見え方まで含めた総合点で決まります。
給与で勝てないなら、他の軸を立ててください。任される範囲の広さ、経営との距離の近さ、地元で腰を据えて働けること、教育に時間をかける方針。どれも大企業には出しにくい価値です。大事なのは、それを自社の思い込みで決めないこと。実際に入社した社員に「なぜうちを選んだか」を聞くと、こちらが弱みだと思っていた点が理由になっていることがよくあります。
05. 論点5|掛け捨てか、仕組みを残す投資か
最後が、費用の配分です。金額の大小より、かけ方の質を先に決めてください。
求人広告は、効果はあるものの掛け捨ての保険のようなものです。少しドーピングに近いところがあって、出稿を止めた瞬間に露出はゼロに戻ります。払い続けなければ採用が止まる体制になってしまうと、業績が揺れた年に採用そのものが止まる。会社にとって人は売上に直結する資源なのに、その調達がお金の有無に左右される状態は、経営としてかなり不安定です。
一方で、受け皿となる採用サイトのように、一度整えれば数年持つものもあります。応募者対応の型や競合分析のやり方を社内に残していく形なら、同じ支出でも仕組みという資産に変わる。予算を組むときは「今年いくら使うか」だけでなく、「使い終わったとき何が残るか」で振り分けてください。
採用戦略を採用計画に落とす|接続点になる3つの数字
戦略が決まったら、計画に落とします。つなぎ目になるのは、採用人数、採用完了時期、そして選考フローの3つです。この3つは戦略で決めた前提から自動的に導けるので、ここで数字が出せないなら戦略のどこかがまだ曖昧だと考えてください。
たとえば論点1で「3年後の技術継承」と決めたなら、必要な育成期間から逆算して採用時期が決まります。論点2で教育前提に組み替えたなら、選考で見る観点が変わり、選考フローに現場との顔合わせや体験の場が入ってくる。論点5で投資型に振ったなら、予算の内訳は媒体費より受け皿の整備に寄ります。
このように、計画の数字は戦略の翻訳です。逆に言えば、戦略なしに計画から入ると、数字の根拠を「去年もこれくらいだったから」で埋めることになります。手順の詳細はKPI・予算・要件を6手順で決めるに譲るので、この記事で決めた5つの論点を持って読み進めてみてください。採用活動そのものの全体像から確認したい方は、中小企業の6ステップで全体像をつかむが入口になります。
戦略づくりに使えるツールと、使う前に決めておくこと
採用戦略というと、フレームワークや管理ツールから入りたくなります。ただ、ツールは戦略を代わりに考えてはくれません。決める順番だけ整理しておきます。
実務で役に立つのは、次のようなものです。
- 応募者管理システム(ATS):応募から内定までの進捗を一元管理する。誰がどこで止まっているかが見える
- 求人検索エンジン:IndeedやGoogleしごと検索など。無料枠でも露出を取れるので、圏内での見つかりやすさを底上げできる
- 競合の求人一覧表:スプレッドシートで十分です。論点3で作った表を更新し続けるだけで、条件見直しの根拠になります
順序としては、競合の一覧表が先、管理ツールは後です。応募が月に数件という段階で管理システムを入れても、管理する対象がありません。まず圏内での見つかりやすさを上げ、応募が増えて手作業が破綻し始めてから道具を足す。この順番を逆にすると、費用だけが先に出ていきます。
中小企業の採用戦略で、つまずきやすい3つのこと
最後に、実際によく起きる詰まり方を挙げておきます。どれも戦略の中身というより、進め方の問題です。
- 兼務のまま抱え込む:採用担当者の約9割は本業と兼務しています。必須作業だけでも40以上ある採用を、片手間で戦略から回すのは無理があります
- 一度立てて終わりにする:市場も競合も動きます。半年に一度は圏内の求人条件を見直してください
- 社内で言葉が共有されていない:経営者と現場で採りたい人物像がずれていると、選考の途中で判断が割れます。5つの論点を紙1枚にまとめ、面接に関わる全員で共有しておくと迷いが減ります
とくに1つ目は、地方の中小企業でいちばん多い詰まり方です。体制そのものの立て直し方は専任がいない会社が最初にやることで整理しています。
戦略づくりで、最初に聞く3つのこと
弊社がキックオフで必ずうかがうのは、次の3つです。理想像から入らず、すでに社内にある事実から始めるための問いです。
1. いま定着している人は、どこが共通していますか
「どんな人が欲しいか」ではなく「どんな人が残っているか」を聞きます。理想像は各社そう変わりませんが、定着している人の共通点はその会社にしかありません。支援の現場でも、この問いから初めて言葉になる基準がほとんどです。
2. 逆に、合わずに辞めた人はどんな人でしたか
採らない基準のほうが、実は輪郭がはっきりします。「単純に労働だけを望んでいる人は合わなかった」のように、言いにくいことほど設計に効きます。
3. その条件に当てはまる人は、通勤圏に何人いそうですか
ここで多くの場合、要件が現実と噛み合っていないことが分かります。必須条件を積み上げた結果、商圏に数十人しかいないという試算になることは珍しくありません。人物像の議論は、この母数と突き合わせて初めて実務になります。
この3つを順に聞くと、「欲しい人」から「採れる人」へ、話の軸が自然に移ります。ペルソナ設計でつまずくのは、たいてい1と3を飛ばして2から入ってしまうときです。
実例を1つ挙げます。
岐阜県の金型メーカーの営業ポジションでは、必須スキル条件に当てはまる求職者が通勤圏内にどれだけいるかを概算したところ、該当者は30人程度しかいないことが分かりました。その30人が自社の求人に目を留め、応募まで至る確率を考えると、要件を維持したまま母数を増やす手はありません。
そこで必須条件の一部を歓迎条件へ移し、間口を広げています。変更の直後にエントリーが入った記録が残っていました。
要件は、社内の希望からではなく「市場に何人いるか」から逆算する。 戦略づくりで最初にやることは、ここだと考えています。
採用戦略は、外れたときに学べる状態をつくるもの
ここまで、採用戦略とは何かという整理から、採用計画との役割の違い、そして5つの論点と計画への落とし方までを見てきました。
戦略というと立派なものを構えなければいけない気がしますが、やっていることは単純です。なぜ採るのかを言葉にし、誰を採るかを現実的な母数から決め、どこで戦っているかを調べ、何で選ばれるかを決め、お金の使い方を決める。この5つが紙1枚にまとまっていれば、それが御社の採用戦略です。
そして、この5つを決める作業でいちばん時間がかかるのは、実は3つ目の土俵の把握だったりします。同商圏の競合が何十社もあれば、条件を洗い出すだけで丸一日消えます。兼務で採用を回している方にとって、ここが最初の関門になりがちです。
ちなみに地方採用ワークスでは、採用活動の代行(リープ・リクルーティング)のなかで、この競合分析と条件設計を含めて一緒に組み立てています。単に求人を出す作業を引き受けるのではなく、御社の人事部をまるごと引き受けるようなイメージです。そして支援は、いずれ自社で回せるようになる卒業を前提に設計しています。ずっと外注に頼り続けてもらうためのものではありません。
戦略を全部お任せいただく必要もありません。考え方は社内で持ち、調べものと運用だけを外に出すという組み方もできます。「何から手をつければいいか分からない」という段階でも大丈夫です。まずは現状をうかがったうえで、どこから着手するのが早いかをご一緒に整理します。
この記事を書いた人

たまちゃん
マーケティングデザイン部 マネージャー/Webマーケター 大学在学中に、複数Webメディアを立ち上げ、アフィリエイターとして法人化。設立から2年後、社会貢献などの「働きがい」を求め、リーピーにジョイン。 現在は、現場で培ったWebサイトの運用経験を元に、お客様サイトの運用代行や自社コーポレートサイトの運用など、幅広いマーケティング領域を担当。